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陽だまりInterview
「父から受け継いだ、昔ながらの農業。私にとってはそれが普通のやり方です」

ビッキー・エムローさん Vicki Emlaw

古くから農場地帯として知られるオンタリオ州プリンス・エドワード・カウンティ(PEC)。最近ここには新しいワイナリーや有名シェフのレストランなどが次々とオープンし、グルメエリアとして注目を集めています。ムーブメントの根底にあるのは、のどかな田舎のリズムの中、自然のままに作られた食材を地産地消する昔ながらのライフスタイル。このPECのスローフード文化のけん引役ともなっている農場「ビッキーズ・ベジー」を訪れ、オーナーのビッキーさんに、ご主人とともに行う地元密着型の自然派農業について、お話をうかがいました。

ビッキー・エムローさん Vicki Emlaw

ビッキーズ・ベジー農場オーナー
(カナダ・オンタリオ州プリンス・エドワード・カウンティ)

www.vickisveggies.com

トマトだけでも200種類以上ほとんど手作業で作っています

― ビッキーさんが農業を始めたきっかけは?

ビッキー・エムロー(以下V)シンプルに畑が好きだったからです。私の家系はずっとPECで農業を営んでおり、私で9代目。両親も農家で、子供のころから二人が作業するのを見て、手伝っていました。土をいじるのが楽しくて、だから農業を始めたのも自然の流れですね。2000年に叔母が持っていたこの土地を買って、本格的に自分の農場を作りました。

農場では鶏も飼い卵も生産

土と野菜に直接触って育てるのが信条

― 伝統的な自然農法で野菜を作っていると評判です。

V私の野菜作りは、父に学んだことが基本になっています。父も祖父から受け継いだ方法で野菜を作っていました。だから私にとっては昔ながらのやり方が普通のやり方です。たとえば肥料は、自分のところで出る野菜ゴミなどに、近所から分けてもらった家畜の糞、葉っぱや木くずなど混ぜて作る。父から教わったレシピ通りに自分で作っています。殺虫剤も使わず、虫がついたら手で取る。収穫も、ほとんど手作業で行います。土や野菜に直接触れて、いろいろ確かめながら作業をしています。

― 大量生産はできませんね。

V自分たちで世話ができる範囲でやっています。4エーカー程度の畑ですが、それでも50種類の野菜が作れるんですよ。トマトだけでも200種類以上あるし、ポテトが8種類、葉物が50種類…。忙しい時期には、お手伝いの方を頼むのですが、たとえばWWOOF(Willing Workers on Organic Farm)という団体を通じて依頼すると、自然農法を学びたいという若者たちが、ボランティアで長期間の手伝いに来てくれるんです。時には外国の方も来ます。伝統的な農業への関心が高い若い人が結構多くて、なんだかうれしいですね。

原種に近い様々なトマトを自然な形で生産

PECは地産地消文化が根付いた土地 地元家庭に採れたて野菜を届けるシステムも

― PECで評判のレストランに行くと、メニューに「ビッキーズ・ベジーの野菜を使用」などと誇らしげに紹介されていることも珍しくありません。とりわけトマトは大人気ですね。

Vトマトは、エアルーム(改良があまりされていない古い品種)だけを育てています。大型のスーパーマーケットなどで流通しているのは、効率的に育てられるよう品種改良されたものがほとんど。なので誰かがエアルーム種を作り続けないと、昔ながらの味が失われてしまうと思って力を注いでいます。他の人にも作ってもらおうと種も販売しているし、また収穫期の夏には毎年、採れたてのエアルームトマトをずらりと並べて食べ比べるイベント「トマトテイスティング」も行っています。これは年々規模が大きくなり、大勢の人が集まって様々なトマトの色や形、味の違いを楽しんでいますね。

遠方からも大勢の人が集まるトマトテイスティング

― PECはひときわ自然な食材に関しての関心が高いのでは。

V伝統的な地産地消の文化が根付いている土地ですからね。レストランだけでなく、地元の各家庭からも野菜の注文がかなりあります。これにはCSA(Community Shared Agriculture)というシステムを使っています。一年分のバウチャーを買っていただいたメンバーの方に、毎週必要なだけの新鮮野菜を届けるという仕組みで、うちのような小規模農家が消費者と直結できるのがメリット。計画的に農業ができ、さまざまな種類の野菜作りに挑戦できるのもCSAのおかげですね。これ、実は1960年代に日本で始まったものらしいですよ。

農場入口にあるセルフサービスの店でも季節の野菜が購入可能

― それが今、カナダで注目されているのですね。時代のニーズに合ったシステムなのかもしれません。スローフード・ブームの中で伝統的な小規模農業が見直されているのと同様に。では最後に、ビッキーさんの将来の夢を教えていただけますか。

V農場を大きくすることはあまり考えていないです。むしろ、いずれは小さなキッチンガーデンで、家族が食べるだけの野菜を育ててのんびり暮らす、そんな風になりたいです。まあ、年をとったら、ということですけどね。それまでは怠けず、PECのみなさんに喜んでいただける美味しい野菜作りに励むつもりです!

ご主人のティムさんと共につくるVickiブランドの野菜は、今やトロントのオーガニックマーケットでも大人気